はちじゅうはちや
八十八夜

冒頭文

諦めよ、わが心、獣(けもの)の眠りを眠れかし。(C・B) 笠井一(はじめ)さんは、作家である。ひどく貧乏である。このごろ、ずいぶん努力して通俗小説を書いている。けれども、ちっとも、ゆたかにならない。くるしい。もがきあがいて、そのうちに、呆(ぼ)けてしまった。いまは、何も、わからない。いや、笠井さんの場合、何もわからないと、そう言ってしまっても、ウソなのである。ひとつ、わかっている。一寸(いっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1939(昭和14)年8月

底本

  • 太宰治全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年10月25日