ア、あき
ア、秋

冒頭文

本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。 「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノオトを選び出し、落ちついてそのノオトを調べるのである。 トンボ。スキトオル。と書いてある。 秋になると、蜻蛉(とんぼ)も、ひ弱く、肉体は

文字遣い

新字新仮名

初出

「若草」1939(昭和14)年10月

底本

  • 太宰治全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年10月25日