はるのよは
春の夜は

冒頭文

一 僕はコンクリイトの建物の並んだ丸(まる)の内(うち)の裏通りを歩いてゐた。すると何か匀(にほひ)を感じた。何か、?——ではない。野菜サラドの匀である。僕はあたりを見まはした。が、アスフアルトの往来には五味箱(ごみばこ)一つ見えなかつた。それは又如何にも春の夜らしかつた。 二 U——「君は夜(よる)は怖くはないかね?」 僕——「格別怖いと思つたことはない。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1927(昭和2)年4月

底本

  • 芥川龍之介作品集 第四巻
  • 昭和出版社
  • 1965(昭和40)年12月20日