一 僕はコンクリイトの建物の並んだ丸(まる)の内(うち)の裏通りを歩いてゐた。すると何か匀(にほひ)を感じた。何か、?——ではない。野菜サラドの匀である。僕はあたりを見まはした。が、アスフアルトの往来には五味箱(ごみばこ)一つ見えなかつた。それは又如何にも春の夜らしかつた。 二 U——「君は夜(よる)は怖くはないかね?」 僕——「格別怖いと思つたことはない。