ほほえみ
微笑

冒頭文

それは可愛らしい、お河童(かっぱ)さんの人形であった。丸裸体(まるはだか)のまま……どこをみつめているかわからないまま……ニッコリと笑っていた。 ……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑であった。 ……真実無上の美くしさ……私は、その美くしさが羨ましくなった。云い知れず憎々しくなった。そのスベスベした肌の光りが無性に悲しく、腹立たしく、自烈度(じれった)くなった

文字遣い

新字新仮名

初出

「猟奇」1929(昭和4)年2月

底本

  • 夢野久作全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年8月24日