あにたち
兄たち

冒頭文

父がなくなったときは、長兄は大学を出たばかりの二十五歳、次兄は二十三歳、三男は二十歳、私が十四歳でありました。兄たちは、みんな優しく、そうして大人びていましたので、私は、父に死なれても、少しも心細く感じませんでした。長兄を、父と全く同じことに思い、次兄を苦労した伯父さんの様に思い、甘えてばかりいました。私が、どんなひねこびた我儘(わがまま)いっても、兄たちは、いつも笑って許してくれました。私には、

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人画報」1940(昭和15)年1月

底本

  • 太宰治全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年10月25日