一 石の階段を上って行くと広い露台のようなところへ出た。白い大理石の欄干(らんかん)の四隅には大きな花鉢(ヴェース)が乗っかって、それに菓物(くだもの)やら花がいっぱい盛り上げてあった。 前面には湖水が遠く末広がりに開いて、かすかに夜霧の奥につづいていた。両側の岸には真黒な森が高く低く連なって、その上に橋をかけたように紫紺色の夜空がかかっていた。夥(おびただ)しい星が白熱した花火の