めいじさんじゅうにねんごろ
明治三十二年頃

冒頭文

明治三十二年に東京へ出て来たときに夏目先生の紹介ではじめて正岡子規(しき)の家へ遊びに行った。それとほとんど同時に『ホトトギス』という雑誌の予約購読者になったのであったが、あの頃の『ホトトギス』はあの頃の自分にとっては実にこの上もなく面白い雑誌であった。先ず第一に表紙の図案が綺麗で目新しく、俳味があってしかも古臭くないものであった。不折(ふせつ)、黙語(もくご)、外面(とのも)諸画伯の挿画や裏絵が

文字遣い

新字新仮名

初出

「俳句研究」1934(昭和9)年9月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日