まつり

冒頭文

毎年春と秋と一度ずつ先祖祭をするのがわが家の例である。今年の秋祭はわが帰省中にとの両親の考えで少し繰り上げて八月某日にする事ときめてあったが、数日来のしけで御供物肴がないため三日延びた。その朝は早々起きて物置の二階から祭壇を下ろし煤(すす)を払い雑巾(ぞうきん)をかけて壇を組みたてようとすると、さて板がそりかえっていてなかなか思うようにならぬのをようやくたたき込む。その間に父上は戸棚から三宝(さん

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1899(明治32)年11月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日