まじょりかざら
まじょりか皿

冒頭文

十二月三十一日、今年を限りと木枯(こがら)しの強く吹いた晩、本郷四丁目から電車を下りて北に向うた忙がしい人々の中にただ一人忙がしくない竹村運平君が交じっていた。小さい新聞紙の包を大事そうにかかえて電車を下りると立止って何かまごまごしていたが、薄汚い襟巻(えりまき)で丁寧に頸から顋(あご)を包んでしまうと歩き出した。ひょろ長い支那人のような後姿を辻に立った巡査が肩章を聳(そびや)かして寒そうに見送っ

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1909(明治41)年1月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日