はんにちあるき
半日ある記

冒頭文

九月二十四日、日曜日、空よく晴れて暑からず寒からず。数学の宿題も午前の中に片付けたれば午後半日は思うまま遊ぶべしと定まれば昼飯待遠し。今日は彼岸にや本堂に人数多(あまた)集りて和尚の称名(しょうみょう)の声いつもよりは高らかなるなど寺の内も今日は何となく賑やかなり。線香と花估(う)るゝ事しきりに小僧幾度か箒(ほうき)引きずって墓場を出つ入りつ。木魚の音のポン〳〵たるを後に聞き朴歯(ほおば)の木履(

文字遣い

新字新仮名

初出

1899(明治32)年9月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日