ついおくのいしたち
追憶の医師達

冒頭文

子供の時分に世話になった医師が幾人かあった。それがもうみんなとうの昔に故人になったしまって、それらの記念すべき諸国手(こくしゅ)の面影も今ではもう朧気(おぼろげ)な追憶の霧の中に消えかかっている。 小学時代にかかりつけの家庭医は岡村先生という当時でももう相当な老人であった。頭髪は昔の徳川時代の医者のような総髪を、絵にある由井正雪(ゆいしょうせつ)のようにオールバックに後方へなで下ろしてい

文字遣い

新字新仮名

初出

「実験治療」1935(昭和10)年1月

底本

  • 寺田寅彦全集 第一巻
  • 岩波書店
  • 1996(平成8)年12月5日