しゃせいきこう
写生紀行

冒頭文

去年の春から油絵の稽古(けいこ)を始めた。冬初めごろまでに小さなスケッチ板へ二三十枚、六号ないし八号の画布へ数枚をかいた。寒い間は休んでことし若葉の出るころからこの秋までに十五六枚か、事によると二十枚ほどの画布を塗りつぶした。これらのものの大部分はみんなうちの庭や建物の一部を写生したものである。 静物もかかないわけではなかった。しかし花を生けて写生しようと思うとすぐにしおれたり、またこれ

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1922(大正11)年1月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第一巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1947(昭和22)年2月5日、1963(昭和38)年10月16日第28刷改版