でんしゃのこんざつについて |
電車の混雑について |
冒頭文
満員電車のつり皮にすがって、押され突かれ、もまれ、踏まれるのは、多少でも亀裂(ひび)の入った肉体と、そのために薄弱になっている神経との所有者にとっては、ほとんど堪え難い苛責(かしゃく)である。その影響は単にその場限りでなくて、下車した後の数時間後までも継続する。それで近年難儀な慢性の病気にかかって以来、私は満員電車には乗らない事に、すいた電車にばかり乗る事に決めて、それを実行している。
文字遣い
新字新仮名
初出
「思想」1922(大正11)年9月
底本
- 寺田寅彦随筆集 第二巻
- 岩波文庫、岩波書店
- 1947(昭和22)年9月10日、1964(昭和39)年1月16日第22刷改版