ちくけんだん ―いまうへいくんにあたえる―
畜犬談 ―伊馬鵜平君に与える―

冒頭文

私は、犬については自信がある。いつの日か、かならず喰(く)いつかれるであろうという自信である。私は、きっと噛(か)まれるにちがいない。自信があるのである。よくぞ、きょうまで喰いつかれもせず無事に過してきたものだと不思議な気さえしているのである。諸君、犬は猛獣である。馬を斃(たお)し、たまさかには獅子(しし)と戦ってさえこれを征服するとかいうではないか。さもありなんと私はひとり淋しく首肯(しゅこう)

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学者」1939(昭和14)年8月

底本

  • 日本文学全集70 太宰治集
  • 集英社
  • 1972(昭和47)年3月