せいじのモンタージュ |
青磁のモンタージュ |
冒頭文
「黒色のほがらかさ」ともいうものの象徴が黒楽(くろらく)の陶器だとすると、「緑色の憂愁」のシンボルはさしむき青磁であろう。前者の豪健闊達(かったつ)に対して後者にはどこか女性的なセンチメンタリズムのにおいがある。それでたぶん、年じゅう胃が悪くて時々神経衰弱に見舞われる自分のような人間には楽焼きの明るさも恋しいがまた同時に青磁にも自然の同情があるのかもしれない。 故夏目漱石(なつめそうせき)先
文字遣い
新字新仮名
初出
「雑味」1931(昭和6)年12月
底本
- 寺田寅彦随筆集 第三巻
- 岩波文庫、岩波書店
- 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年4月16日第20刷改版