えいがのせかいぞう |
映画の世界像 |
冒頭文
映画のスクリーンの平面の上に写し出される光と影の世界は現実のわれらの世界とは非常にかけはなれた特異なものであって両者の間の肖似はむしろきわめてわずかなものである。それにもかかわらずわれわれは習慣によって養われた驚くべき想像力の活動によって、このわずかな肖似の点を土台にして、かなりまで実在の世界に近い映画の世界を築き上げる。そうして、いつのまにか映画と実際との二つの世界の間を遠く隔てる本質的な差違を
文字遣い
新字新仮名
初出
「思想」1932(昭和7年)2月
底本
- 寺田寅彦随筆集 第三巻
- 岩波文庫、岩波書店
- 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年4月16日第20刷改版