ちきゅうず |
地球図 |
冒頭文
ヨワン榎(えのき)は伴天連(バテレン)ヨワン・バッティスタ・シロオテの墓標である。切支丹(キリシタン)屋敷の裏門をくぐってすぐ右手にそれがあった。いまから二百年ほどむかしに、シロオテはこの切支丹屋敷の牢のなかで死んだ。彼のしかばねは、屋敷の庭の片隅にうずめられ、ひとりの風流な奉行がそこに一本の榎を植えた。榎は根を張り枝をひろげた。としを経て大木になり、ヨワン榎とうたわれた。 ヨワン・バッ
文字遣い
新字新仮名
初出
「新潮 第三十二年第十二号」1935(昭和10)年12月1日
底本
- 太宰治全集1
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1988(昭和63)年8月30日