たまるせんせいのついおく
田丸先生の追憶

冒頭文

なくなってまもない人の追憶を書くのはいろいろの意味で困難なものである。第一には、時のパースペクティヴとでもいうのか、近いほうの事がらの印象が遠い以前のそれを掩散(えんさん)したがる傾向がある。第二には、近いほうの事を書こうとすると自然現在の環境の中でのいろいろの当たりさわりが生じやすい。第三には、いったいそういうものを書こうというような気持ちにもなりにくいものである、いかにも心ないわざだという気が

文字遣い

新字新仮名

初出

「理学部会誌」1932(昭和7)年12月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第三巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年4月16日第20刷改版