じょうはつざら
蒸発皿

冒頭文

一 亀井戸まで 久しぶりで上京した友人と東京会館で晩餐(ばんさん)をとりながら愉快な一夕を過ごした。向こうの食卓には、どうやら見合いらしい老若男女の一団がいた。きょうは日がよいと見える。近ごろの見合いでは、たいてい婿殿のほうがかえって少しきまりが悪そうで、嫁様のほうが堂々としている。卓上の花瓶(かびん)に生けた紫色のスウィートピーが美しく見えた。 会館前で友人と別れて、人通りの少な

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1933(昭和8)年6月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第四巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年5月16日第20刷改版