にわのついおく
庭の追憶

冒頭文

郷里の家を貸してあるT氏からはがきが来た。平生あまり文通をしていないこの人から珍しい書信なので、どんな用かと思って読んでみると、 郷里の画家の藤田(ふじた)という人が、筆者の旧宅すなわち現在T氏の住んでいる屋敷の庭の紅葉を写生した油絵が他の一点とともに目下上野(うえの)で開催中の国展に出品されているはずだから、暇があったら一度見に行ったらどうか。 という親切な知らせであった。さ

文字遣い

新字新仮名

初出

「心境」1934(昭和9)年6月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第四巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年5月15日、1963(昭和38)年5月16日第20刷改版