いとぐるま
糸車

冒頭文

祖母は文化十二年(一八一五)生まれで明治二十二年(一八八九)自分が十二歳の歳末に病没した。この祖母の「思い出の画像」の数々のうちで、いちばん自分に親しみとなつかしみを感じさせるのは、昔のわが家のすすけた茶の間で、糸車を回している袖(そで)なし羽織を着た老媼(ろうおう)の姿である。紋付きを着て撮(と)った写真や、それをモデルにしてかいた油絵などを見ても、なんだかほんとうの祖母らしく思われないが、ただ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学」1935(昭和10)年8月

底本

  • 寺田寅彦随筆集 第五巻
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1948(昭和23)年11月20日、1963(昭和38)年6月16日第20刷改版