じゅうにがつようか
十二月八日

冒頭文

きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう。昭和十六年の十二月八日には日本のまずしい家庭の主婦は、どんな一日を送ったか、ちょっと書いて置きましょう。もう百年ほど経(た)って日本が紀元二千七百年の美しいお祝いをしている頃に、私の此(こ)の日記帳が、どこかの土蔵の隅から発見せられて、百年前の大事な日に、わが日本の主婦が、こんな生活をしていたという事がわかったら、すこしは歴史の参考になるかも知れ

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1942(昭和17)年2月

底本

  • 太宰治全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年1月31日