どうけのはな
道化の華

冒頭文

「ここを過ぎて悲しみの市(まち)。」 友はみな、僕からはなれ、かなしき眼もて僕を眺める。友よ、僕と語れ、僕を笑へ。ああ、友はむなしく顏をそむける。友よ、僕に問へ。僕はなんでも知らせよう。僕はこの手もて、園を水にしづめた。僕は惡魔の傲慢さもて、われよみがへるとも園は死ね、と願つたのだ。もつと言はうか。ああ、けれども友は、ただかなしき眼もて僕を眺める。 大庭葉藏はベツドのうへに坐つて、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「日本浪漫派」1935(昭和10)年5月号

底本

  • 太宰治全集2
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月25日