はは

冒頭文

昭和二十年の八月から約一年三箇月ほど、本州の北端の津軽の生家で、所謂(いわゆる)疎開(そかい)生活をしていたのであるが、そのあいだ私は、ほとんど家の中にばかりいて、旅行らしい旅行は、いちども、しなかった。いちど、津軽半島の日本海側の、或(あ)る港町に遊びに行ったが、それとて、私の疎開していた町から汽車で、せいぜい三、四時間の、「外出」とでも言ったほうがいいくらいの小旅行であった。 けれど

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1947(昭和22)年3月

底本

  • 太宰治全集9
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年5月30日