はくめい
薄明

冒頭文

東京の三鷹(みたか)の住居を爆弾でこわされたので、妻の里の甲府(こうふ)へ、一家は移住した。甲府の妻の実家には、妻の妹がひとりで住んでいたのである。 昭和二十年の四月上旬であった。聯合機(れんごうき)は甲府の空をたびたび通過するが、しかし、投弾はほとんど一度も無かった。まちの雰囲気(ふんいき)も東京ほど戦場化してはいなかった。私たちも久し振りで防空服装を解いて寝る事が出来た。私は三十七に

文字遣い

新字新仮名

初出

新紀元社刊、1946(昭和21)年12月

底本

  • 太宰治全集8
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年4月25日