あるゆうかくでのできごと こうしょうそんぱいろんじゃへのさんこうしりょうとしてのじつれい
ある遊郭での出来事 公娼存廃論者への参考資料としての実例

冒頭文

1 大泥棒の客 ある晩、F楼の亭主が隣家のH楼の電話を借りにいった。 Fにも電話があるのに自分の処へ借りに来たものだから、H楼の亭主は何事かと思って、 『お宅の電話は、どうかしましたか?』 と訊(き)いた。 『ナニ、警察へちょっと……野郎感づくと遁がしちまうから……』 F楼の亭主はそういいながら電話室へ入ると、じきに電話を切って出て来たが、馴れ切った中に

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論 第十年八号」中央公論社、1925(大正14)年8月1日

底本

  • 空にむかひて
  • 武蔵野書房
  • 2001(平成13)年1月21日