ひふとこころ
皮膚と心

冒頭文

ぷつッと、ひとつ小豆粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりにも、ぱらぱら小さい赤い吹出物が霧を噴きかけられたように一面に散点していて、けれども、そのときは、痒(かゆ)くもなんともありませんでした。憎い気がして、お風呂で、お乳の下をタオルできゅっきゅっと皮のすりむけるほど、こすりました。それが、いけなかったようでした。家へ帰って鏡台のまえに坐り、胸をひろげて、鏡に写

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学界」1939(昭和14)年11月

底本

  • きりぎりす
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1974(昭和49)年9月30日、1988(昭和63)年3月15日29刷改版