しんぞうとうなん うていてんくしりーず・に
心臓盗難 烏啼天駆シリーズ・2

冒頭文

深夜の事件 黒眼鏡に、ひどい猫背の男が、虎猫色(とらねこいろ)の長いオーバーを地上にひきずるようにして、深夜の町を歩いていた。 めずらしく暖い夜で、町並は霧にかくれていた。もはや深更(しんこう)のこととて行人の足音も聞えず、自動車の警笛の響さえない。 黒眼鏡にひどい猫背の男は、飄々(ひょうひょう)として、S字状に曲った狭い坂道をのぼって行く。この男こそ、名乗りをあげるなら

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物」文藝春秋社、1947(昭和22)年3月号

底本

  • 海野十三全集 第12巻 超人間X号
  • 三一書房
  • 1990(平成2)年8月15日