いんか
陰火

冒頭文

誕生 二十五の春、そのひしがたの由緒ありげな學帽を、たくさんの希望者の中でとくにへどもどまごつきながら願ひ出たひとりの新入生へ、くれてやつて、歸郷した。鷹の羽の定紋うつた輕い幌馬車は、若い主人を乘せて、停車場から三里のみちを一散にはしつた。からころと車輪が鳴る、馬具のはためき、馭者の叱咤、蹄鐵のにぶい響、それらにまじつて、ひばりの聲がいくども聞えた。 北の國では、春になつても雪があ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文藝雑誌」1935(昭和10)年4月号

底本

  • 太宰治全集2
  • 筑摩書房
  • 1998(平成10)年5月25日