モスクワのつじばしゃ |
モスクワの辻馬車 |
冒頭文
強い勢いで扉(ドア)が内側からあけられた。ともしびがサッと広く歩道へさした。が、そこから出て来たのは案外小さい一人の女だった。 歩道に沿って二台辻馬車が停っている。後の一台では御者が居眠りしていた。前の御者台に黒い外套を着て坐っていた御者が扉の音で振向いた。馬具の金具が夜の中にひかった。 小さい女はひどく急いでいる風で立ち止まるのも惜しそうに、歩道の上から御者に叫んだ。
文字遣い
新字新仮名
初出
「読売新聞」1931(昭和6)年1月1日、4日、6~9日号
底本
- 宮本百合子全集 第九巻
- 新日本出版社
- 1980(昭和55)年9月20日