ぶとうかい |
舞踏会 |
冒頭文
一 明治十九年十一月三日の夜であつた。当時十七歳だつた——家(け)の令嬢明子(あきこ)は、頭の禿げた父親と一しよに、今夜の舞踏会が催さるべき鹿鳴館(ろくめいくあん)の階段を上つて行つた。明(あかる)い瓦斯(ガス)の光に照らされた、幅の広い階段の両側には、殆(ほとんど)人工に近い大輪の菊の花が、三重の籬(まがき)を造つてゐた。菊は一番奥のがうす紅(べに)、中程のが濃い黄色、一番前のがまつ白な花
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新潮」1920(大正9)年1月
底本
- 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
- 筑摩書房
- 1968(昭和43)年8月25日