「けんせつのめいあん」のいんしょう |
「建設の明暗」の印象 |
冒頭文
新築地の「建設の明暗」はきっと誰にとっても終りまですらりと観られた芝居であったろうと思う。 廃れてゆく南部鉄瓶工の名人肌の親方新耕堂久作が、古風な職人気質の愛着と意地とをこれまで自分の命をうちこんで来た鉄瓶作りに傾けて、鉄の配給統制で材料もなくなり日々の生活に窮しつつ猶組合の工場へ入って一人の労働者として働くことを肯(がえん)じがたい心持の失望と苦悩、そういう久作の昔気質の職人肌なものの
文字遣い
新字新仮名
初出
「帝国大学新聞」1940(昭和15)年1月15日号
底本
- 宮本百合子全集 第十一巻
- 新日本出版社
- 1980(昭和55)年1月20日