ふたつのばあい
二つの場合

冒頭文

先頃、山川氏の『朱実作品集』を、いろいろの点から興味ふかく読んだ。それと前後して窪川いね子の作品集『牡丹のある家』を読んでいたのであったが、私は、全く内容の種類を異にしたこの二つの作品集から、計らずも一つの共通した印象を与えられた。それは『朱実作品集』の中にも、『牡丹のある家』にも、もしそれ等がまとまった一つの中篇或は長篇として扱われていたら、芸術品として更に強い効果を示したであろうと思われる連作

文字遣い

新字新仮名

初出

「輝ク」1934(昭和9)年11月17日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年12月20日