——こんな小説も、私は読みたい。(作者) A 美濃(みの)十郎は、伯爵(はくしゃく)美濃英樹の嗣子(しし)である。二十八歳である。 一夜、美濃が酔いしれて帰宅したところ、家の中は、ざわめいている。さして気にもとめずに、廊下を歩いていって、母の居間のまえにさしかかった時、どなた、と中から声がした。母の声である。僕です、と明確に答えて、居間の障子(しょうじ)をあけた