つぼうちせんせいについて
坪内先生について

冒頭文

坪内先生に、はじめて牛込余丁町のお宅でおめにかかったのは、もう十数年以前、私が十八歳の晩春であったと思う。両親が私の書いたものを坪内先生に見ていただくようにきめて、母が私を連れ余丁町のお家を訪ねたのであった。 私は受け身に、きめられた手筈にしたがって永い道を車にのって行った。 二階のお座敷に、平たくて大きいテーブルがあったように覚えている。床の間には大きい支那の石刷がかかってい

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1935(昭和10)年4月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年12月20日