くのうのねんかん
苦悩の年鑑

冒頭文

時代は少しも変らないと思う。一種の、あほらしい感じである。こんなのを、馬の背中に狐(きつね)が乗ってるみたいと言うのではなかろうか。 いまは私の処女作という事になっている「思い出」という百枚ほどの小説の冒頭は、次のようになっている。 「黄昏(たそがれ)のころ私は叔母(おば)と並んで門口に立っていた。叔母は誰かをおんぶしているらしく、ねんねこを着ていた。その時のほのぐらい街路の静けさ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新文芸」1946(昭和21)年3月

底本

  • 太宰治全集8
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年4月25日