じゅうがつのぶんげいじひょう
十月の文芸時評

冒頭文

小さき歩み ああ、しばらく、と挨拶をするような心持で、私は佐藤俊子氏の「小さき歩み」という小説(改造)を手にとった。この作者が田村という姓で小説を書いていた頃の写真の面影は、ふっさりと大きいひさし髪の下に、当時の日本の婦人としては感覚的なある強さの感じられる表情をうかべて、遠い大正年代初頭の記憶に刻まれている。当時この作者は、恋愛のいきさつの間で、激情的に、爆発的に女の自我というものを主張し

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京日日新聞」1936(昭和11)年9月23~27、29日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年12月20日