さくひんのテーマとじんせいのテーマ
作品のテーマと人生のテーマ

冒頭文

『中央公論』の十月号に、荒木巍氏の「新しき塩」という小説がある。中学校の教師を勤めているうちに自身の少年時代の生活経験から左翼の活動に共感し、そのために職を失った魚住敬之助という男が、北海道まで行って、不良少年感化院の教師となって暮している。左翼の力が退潮した後、思想上の混乱から彼は死のうとして失敗し、やがて「感化教育の中に一生を投じ、自分の思想、信念を生かそうとして」いる現状である。妻の胤子が、

文字遣い

新字新仮名

初出

「早稲田大学新聞」1936(昭和11)年9月30日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十巻
  • 新日本出版社
  • 1980(昭和55)年12月20日