カルメン
カルメン

冒頭文

革命前(ぜん)だったか、革命後だったか、——いや、あれは革命前ではない。なぜまた革命前ではないかと言えば、僕は当時小耳(こみみ)に挟(はさ)んだダンチェンコの洒落(しゃれ)を覚えているからである。 ある蒸し暑い雨(あま)もよいの夜(よ)、舞台監督のT君は、帝劇(ていげき)の露台(バルコニー)に佇(たたず)みながら、炭酸水(たんさんすい)のコップを片手に詩人のダンチェンコと話していた。あの

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1926(大正15)年7月

底本

  • 芥川龍之介全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年3月24日