きょうおうふじん
饗応夫人

冒頭文

奥さまは、もとからお客に何かと世話を焼き、ごちそうするのが好きなほうでしたが、いいえ、でも、奥さまの場合、お客をすきというよりは、お客におびえている、とでも言いたいくらいで、玄関のベルが鳴り、まず私が取次ぎに出まして、それからお客のお名前を告げに奥さまのお部屋へまいりますと、奥さまはもう既に、鷲(わし)の羽音を聞いて飛び立つ一瞬前の小鳥のような感じの異様に緊張の顔つきをしていらして、おくれ毛を掻(

文字遣い

新字新仮名

初出

「光」1948(昭和23)年1月

底本

  • 太宰治全集9
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1989(平成元)年5月30日