「あいとし」 |
「愛と死」 |
冒頭文
「愛と死」が、読むものの心にあたたかく自然に触れてゆくところをもった作品であることはよくわかる。武者小路実篤氏の独特な文体は、『白樺』へ作品がのりはじめた頃から既に三十年来読者にとって馴染(なじみ)ふかいものであり、しかもこの頃は、一方で益々単純化されて来ているとともに練れて光沢を帯びたようなところが出来ている。そのような文章で描き出されている「愛と死」の夏子の愛くるしさは躍如としているし、その愛
文字遣い
新字新仮名
初出
「日本学芸新聞」1941(昭和16)年3月10日号
底本
- 宮本百合子全集 第十二巻
- 新日本出版社
- 1980(昭和55)年4月20日