ほうろうのやど |
放浪の宿 |
冒頭文
午(ひる)さがりの太陽が、油のきれたフライパンのように、風の死んだ街を焙りつけていた。プラタナスの街路樹が、その広い掌のような葉身をぐったり萎(すぼ)めて、土埃りと、太陽の強い照りに弱り抜いて見えた。 街上には、動く影もなかった。アスファルトの路面をはげしく照りつけている陽脚に、かすかな埃りが舞いあがっているばかりで、地上はまるで汗腺の涸渇した土工の肌のように、暑熱の苦悶に喘いでいるのだ
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」1927(昭和2)年12月号
底本
- 日本プロレタリア文学全集・10 「文芸戦線」作家集(一)
- 新日本出版社
- 1985(昭和60)年11月25日