めくらぞうし
めくら草紙

冒頭文

なんにも書くな。なんにも読むな。なんにも思うな。ただ、生きて在れ! 太古のすがた、そのままの蒼空(あおぞら)。みんなも、この蒼空にだまされぬがいい。これほど人間に酷薄(こくはく)なすがたがないのだ。おまえは、私に一箇の銅貨をさえ与えたことがなかった。おれは死ぬるともおまえを拝まぬ。歯をみがき、洗顔し、そのつぎに縁側の籐椅子(とういす)に寝て、家人の洗濯の様をだまって見ていた。盥(たらい)

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1936(昭和11)年1月号

底本

  • 太宰治全集1
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年8月30日