かんかんむし |
かんかん虫 |
冒頭文
ドゥニパー湾の水は、照り続く八月の熱で煮え立って、総ての濁った複色の彩(いろ)は影を潜め、モネーの画に見る様な、強烈な単色ばかりが、海と空と船と人とを、めまぐるしい迄にあざやかに染めて、其の総てを真夏の光が、押し包む様に射して居る。丁度昼弁当時で太陽は最頂、物の影が煎りつく様に小さく濃く、それを見てすらぎらぎらと眼が痛む程の暑さであった。 私は弁当を仕舞ってから、荷船オデッサ丸の舷にぴっ
文字遣い
新字新仮名
初出
「白樺」1910(明治43)年10月
底本
- 日本プロレタリア文学大系 序
- 三一書房
- 1955(昭和30)年3月31日第1版発行