チュンタオ
春桃

冒頭文

一 情報局、出版会という役所が、どんどん良い本を追っぱらって、悪書を天下に氾濫させた時代があった。日配が、それらのくだらない本を、束にして、配給して各書店の空虚な棚を埋めさせた。今から三年ばかり前は、その絶頂であった。本らしい本をさがす心と眼とは、駄本の列の上に憤りをもって走ったのであった。 そういう時期に、都電が故障した偶然から、神明町のわきの本屋へ入った。何心なく見まわしていた

文字遣い

新字新仮名

初出

「近代文学」2、3号、1946(昭和21)年2、4月

底本

  • 宮本百合子全集 第十三巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年11月20日