あるかいそうから |
ある回想から |
冒頭文
日本には、治安維持法という題の小説があってよい。そう思われるくらい、日本の精神はこの人間らしくない法律のために惨苦にさらされた。 先日、偶然のことから古い新聞の綴こみを見ていた。そしたら、一枚の自分の写真が目についた。髪をひきつめにして、絣の着物をきて、長火鉢のわきにすわっている。そして、むかいあいの対手に、熱心に話している。その顔が、横から夜間のフラッシュで撮されているのであった。興奮
文字遣い
新字新仮名
初出
「日本評論」1946(昭和21)年7月号
底本
- 宮本百合子全集 第十三巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年11月20日