くれのまち
暮の街

冒頭文

銀座の通りを歩いていたらば、一つの飾窓の前に人だかりがしている。近よって見るとそこには法廷に立っているお定の写真が掲げられているのであった。 数日前には、前陸軍工廠長官夫人の虚栄心が、良人の涜職(とくしょく)問題をひきおこす動機となっているという発表によって、そのひとの化粧した写真が新聞に出た。 それより前には、志賀暁子の嬰児遺棄致死罪についての公判記事が写真入りでのっており、

文字遣い

新字新仮名

初出

「輝ク」1936(昭和11)年12月17日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年7月20日