ふうふがさっかであるばあい
夫婦が作家である場合

冒頭文

よほど以前のことになるが田村俊子氏の小説で、二人とも小説をかくことを仕事としている夫婦の生活があつかわれているものがあった。筋や、そのほかのことについてはもう思い出せないのであるが、今も焙(や)きついた記憶となって私の心にのこっている一場面がある。何か夫婦の間の感情が気まずい或る日、妻である婦人作家が二階の机の前で小説が進まず苦心していると、良人である男の作家がのしのし上って来て、傍から、何だ! 

文字遣い

新字新仮名

初出

「行動」1934(昭和9)年12月号

底本

  • 宮本百合子全集 第十四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年7月20日