“けんぜんせい”のむずかしさ
“健全性”の難しさ

冒頭文

この間田舎へかえる親戚のもののお伴をして珍しく歌舞伎座を観た。十一月のことで、序幕に敵国降伏、大詰に笠沙高千穂を据えた番組であった。 この芝居をみていて深く感じたことは演劇のとりしまりや自粛がどんなに芸術の生命を活かすものでなければならないか、ということであった。 云わでものことのようなことを沁々と思わずにいられないものがあった。従来の歌舞伎の番組には徳川末期的の世情を映したも

文字遣い

新字新仮名

初出

「都新聞」1940(昭和15)年12月15日号

底本

  • 宮本百合子全集 第十四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年7月20日