なつこどき
夏蚕時

冒頭文

一 午過ぎてから梅雨雲が切れて薄い陽が照りはじめた。雨上りの泥濘道を学校帰りの子供達が群れて来た。森田部落の子供達だ。 山の角を一つ廻ると、ゴトゴト鳴いてゐた蛙の声がばったり熄んだ。一人の子がいきなり裾をからげて田の中へ入った。そしてヂャブヂャブさせ乍ら蛙を追ひ廻した。 「厭(や)アだな! 秀さはまた着物汚してお父(とう)まに怒られるで……。」 後から来た女の子達のひと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「つばさ 第二巻第四号」つばさ発行所、1931(昭和6)年4月1日

底本

  • 定本金田千鶴全集
  • 短歌新聞社
  • 1991(平成3)年8月20日